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酒呑みと夜行列車 [書評?]


三月は深き紅の淵を (講談社文庫)

三月は深き紅の淵を (講談社文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2001/07/13
  • メディア: 文庫


年も明けましてほぼ平常の生活に戻りつつありますが、こういう状態を「御屠蘇気分も抜け切らぬ」とか表現するのは、下戸差別とでもいうのか昨今ではあまり聞かなくなったような気がします。もっとも我が家では正式な御屠蘇など仕度したことが無く、私も元旦の正月は普通の熱燗をお猪口に一杯頂くだけなので、廃れたのは表現なのか習慣なのかわかりませんが。
そもそもワインや焼酎ブームは別にして、日本で一般に「酒を飲む」とは日本酒やビールを大量に摂取することで、どちらもあまり飲めない(ビールに至っては口に入れるのも辛い)私のような人間は自分が充分「下戸」の範疇に入るものだと思っております。しかしその私でも、思わずそそられる飲酒というものがありまして、それは大抵ウイスキーやジンなどアルコール度数の高い洋酒なのです。もちろんそんなには飲めませんが、昔の洋画で、登場人物が書斎の隅のワゴンで、無造作にウイスキーをグラスに注ぎ、くっとあおるシーンなどを見るのが大好きです。


プラスチックや紙のコップではどうしても酒が飲めない、と朱音はでこぼこして黒ずんだ小さなアルミのマグカップを取り出した。どんな出張旅行でも必ず持参するのだそうな。…(中略)…朱音は隆子の分まで(こちらはもう少し綺麗なカップだったが)用意してくれており、とぷとぷバーボンをついでくれる。鼻の奥に眠っているトカゲがそろりと起きだすような香りが、肩に残っていた昼間の残滓を抜いていく。
講談社文庫「三月は深き紅の淵を」 恩田陸

その存在も作者も不明だが、一読した者もそうでない者をも魅了する「三月は深き紅の淵を」という本にまつわる物語。読書好きの会長に招かれたやはり本好きの会社員が、広壮な別宅でかの本を噂を聞き、膨大な蔵書からそれを探す第一章。二人の女性編集者がその作者の正体に迫る為、夜行列車で出雲に向かいつつ推理を展開する第二章、非業の死を遂げた少女の意思を継いでこの本を書こうと決意する作者の、そこに至る哀しい経緯が書かれた第三章、そしてこのすべての物語を描こうと原稿に向かう作者恩田氏の思索が楽屋話のように語られる第四章、というように本編は分かれている。
引用はその第二章の夜行列車での旅のひとこまです。二人の酒盛りしながら謎の本の内容とその作者について語り合う場面ですが、用意してきた大量の酒のあてがすごい。ギンビスのアスパラガス(黒ゴマの入った細長いビスケット)、コンソメチップ、トマトプリッツ、あたりめ、キムチ、枝豆、チーズ、焼き鳥、ネギトロ巻き、霧の浮舟(チョコレート)、元祖柿の種。それそれの量は分かりませんが女性二人で食べきれるのかな、これ。お酒もわざわざ駅で冷えたビールのロング缶を買い、ボトルで持ち込んだバーボン用にアルミのカップを二つも持参してくる準備のよさ。酒呑みの執念というかこだわりを感じます。この「とぷとぷ」がいいですよね。咽喉が鳴りたちまち舌の奥から唾が湧く擬音だと思います。こんな風にストレートで何杯も飲んだら、私ならたちまち酔って胃がひっくり返ること間違いなしですが、彼女達はかなり強いようで、酔うことよりも、ダイエットのことを気にしておりました。うう、うらやましい。確かに旅行先などで一晩中、気の置けない相手と好きなように食べたり、しゃべったりしていると、不思議に全然お酒がまわらないというか、悪酔いしない事もあります。翌朝空になった瓶や缶を見てぎょっとしたことも…。この「とぷとぷ」が私を旅情に誘いつつ、バーボンが注がれたマグカップを渇望させる、私にとっては何とも罪な一節なのです。


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アシェンバハの苺 [書評?]


トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す (新潮文庫)

トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す (新潮文庫)

  • 作者: トーマス・マン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1967/09/27
  • メディア: 文庫



暮れも押し迫って参りました。スローペースの私も何かに追いまくられつつある今日この頃。

年賀状にも手をつけず、のんきにクリスマスケーキを買うべきかどうかで悩んでます。
お店や種類の選択肢が多すぎて選べないし、予約が面倒だし、値段も高めだし…
生クリームとスポンジと苺さえ買えば結構立派なモノが食べられるからなぁと
物臭なのかどっちだかわからん心境です。

苺といえば前回のジャムつながりというわけでもないのですが
今回は「ヴェニスに死す」のこの場面をピックアップしました。


それからアシェンバハは大道商人から買い求めた大きな、よく熟した苺を食べた。

頭はずきずきし、からだは汗にまみれ、膝頭がふるえ、喉がかわいてもう我慢がならなかった。なんでもいいから何か飲むものはあるまいかと当たりを見回した。小さな青物屋の店頭でくだものを少々、熟しすぎて、柔らかくなった苺を買って、歩きながらそれを食べた。

新潮文庫「ヴェニスに死す」 トーマス・マン 高橋義孝訳


奇跡の美少年ビョルン・アンドレセンを発掘し、ヴィスコンティによって映画化されたこの作品は公開時より、多数の婦女子(その当時この名称はなかった腐女子含む)を熱狂させ、半ば伝説化されてますね。私も友人とリバイバル上映で鑑賞し、美少年とヴェニスの街を堪能しました。

大作家アシェンバハは旅行で訪れたイタリア、ヴェニスのホテルで、神々しいまでに美しい少年タッジウに出会い、すっかり魅了されます。ホテルの食堂や浜辺で少年を眺めては目を細め、外出先で偶然出会っては喜んだりしているうちに、彼は、少年と言葉を交わさずとも互いの間に感情の交流を感じて幸せにひたるのですが、その様がどこか滑稽さを含んだ物悲しい調子で描かれています。
主人公が少年を観察する状況が中心のため、同じホテルの宿泊客である両者が必然的に近距離にいる場面、即ち食事のシーンは結構多いのですが、肝心の食事自体の描写はほとんどありません。食べた物の具体名が出るのは引用部分の苺と飲み物位で、その数少ない例がいやしい私の印象に残った訳です。上記の最初の部分は、アシェンバハがホテル専用の海水浴場で貸小屋を借り、長椅子に横たわりつつ、少年一家の様子を見ていた時のもの。初夏だというのにどことなく重苦しい曇りの空、薄黄色の砂浜、暗い海、よく熟した大きな苺。きっとつまむと赤い果汁が指を汚したでしょう。初老の人品卑しからぬ紳士が手で苺を食べる姿はどこか微笑ましいものがあります。
私は十年程前の春先に1週間弱程度ヴェニス滞在した際、市場で買った苺を食べたのですが、ぱりぱりした歯ごたえが日本のものより固く、半分に割った断面が真っ赤で白っぽい部分がまるで無いのに、全く甘くなかったのに驚きました。とにかく味より色が印象的でした。
彼が食べた苺はそれより時期が遅いのでもっと甘くて美味しいものだったのかもしれませんが。蒸し暑い浜辺で、今の私たちが浜辺でするよりかなりきちんとした服装だった彼の喉を潤すにはちょうどよい食べ物だったのでしょう。
彼は思慕が高じてさらに頻繁に少年を求める様になっていきます。思わしくない気候に体調を崩しながら、ストーカーまがいに少年(と彼の一家)の行きそうな所を彷徨い、一日中彼を追い続けます。その最中、街の澱んだ空気や露骨な消毒の臭い、観光シーズンだというのに静まり返った様子に、彼は疑問を感じ、ふとしたことでここヴェニスにコレラが流行しつつあることを知らされます。しかし、もはや彼は荷物をまとめて発つこともできず、体の不調に朦朧としながらも、少年を求めて街を徘徊するのでした。
上記の次の部分はその様子で、彼はまたも苺を食べています。
コレラの感染源は野菜や魚、肉類、牛乳等と考えられていた様ですが、あるいは彼が購入して生で食べた真紅の苺だったのかもしれません。
少年の一家がヴェニスを発つ朝、彼は浜辺でその美しい姿を眺めつつ息をひきとるのです。

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アガサ・クリスティのドーナツ [書評?]

しょっぱなから季刊化しそうな怠惰なブログです。次回はがんばります。

いきなり寒くなりましたが、ようやく食欲が刺激される気候になり、目に触れる何もかもが美味しそうに見えて困っております。テレビをつければ料理番組にCMに…とりわけ某ドーナツ店の復刻商品CMが目についてたまりません。個人的にとても復活して欲しいドーナツがあるのですが、まったくその気配がなく悔しく思っております。それは現在も販売中のエンゼルクリームと同タイプで、全体にグラニュー糖をまぶし、生地の中にストロベリーソースを詰めたなかなか甘さに破壊力のある一品。私はいわゆる「イチゴ味」はあまり好きではなかったのに、ある理由でこのドーナツは大好物だったのです。

理由 -それはアガサ・クリスティのミステリ小説「バートラム・ホテルにて」の中のある一節。

ミス・マープルが見ていると、ベス・セジウィックは紅茶茶碗の受け皿の上に煙草を押しつぶしてけすと、ドーナツをつまみ上げて、大口開けてかぶりついた。こってりとした本物の赤いイチゴジャムがどろりとあごへこぼれ落ちた。(中略)ベスはそのナプキンを受け取ると、まるで小学生みたいな乱暴なしぐさであごをこすってから、大きな声をはりあげたのである。「こいつはほんもののドーナツってもんだな。すごいよ」
ハヤカワ・ミステリ文庫 バートラム・ホテルにて 乾 信一郎訳

文章でドーナツの正確な形状は描写されていませんが、私はいつも店頭から消えてしまったあのドーナツを思い浮かべます。
イギリスのドーナツなど当然食べた事が無く、インターネットもまだ存在しなかった初読時、他のお菓子の写真とレシピと英国産ジャムの味の記憶を頼りに必死で想像を膨らませました。こってりと濃厚でしっかりと甘い、日本の3倍くらい砂糖を使ってるんじゃないかって位の文字通りのsweetsを。きっと一口かじっただけで歯がしびれるほど甘いドーナツの味を。
某ドーナツ店で私の想像通りのそれを見つけた時、二つは強引に重なりました。
女性の白いあごに口の端からこぼれ落ちる深紅のイチゴジャム…ああ、食べたい!

《バートラム・ホテルにて》
あのベルギー人探偵ポワロ氏ではなく、典型的英国老淑女ミス・マープルの登場するお話。
セント・メアリ・ミード村で極つましい生活を送る彼女は。親切な甥に休暇を勧められロンドンへ旅行にでかけます。宿泊は少女期の思い出深いバートラム・ホテル。半世紀以上の年月が経ても昔と「全く変わらず」重厚で上品な佇まいを見せるホテルに、彼女は少々違和感を覚えながらも、買い物に市内散策にとロンドンを堪能します。事件は宿泊客の失踪に始まり、小さな窃盗未遂やら強盗団やら殺人事件がからんで展開し、ミス・マープルのいつものようにおっとりと上品な大活躍(?!)で終わります。失礼ながら物語以上に魅力的なのが随所に見られる食事の描写。舞台となったホテルの名物が、ボリュームたっぷりの伝統的な朝食(これがまた食欲をそそる!また後日触れたいと思います)、そして日本でもすっかり有名になった「アフタヌーン・ティー」。選りすぐりの紅茶やシェフ謹製の伝統的なお茶菓子はもちろんのこと、外国人観光客(主にアメリカ人)を感動させるのが「本物の」紳士淑女が昔ながらにお茶を楽しむ光景そのもの。上記の引用部分でミス・マープルは司祭や退役軍人、年金生活者の老婦人達に混じって一人、異彩を放つ人物に注目します。ベス・セジウィック―突飛な行動と華やかな交友で世間を騒がすスター的存在の彼女は、およそこの場にそぐわない人物なのですが、一人悠然とお茶を楽しんでるようです。


先日BS2で放送されていたドラマを御覧になった方も多いと思いますが、ストーリーはかなり改変されていて、私にとって重要なこのシーンを映像で見ることはできませんでした。残念。

 
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とりあえず始めてみる [告知]

読書の秋の到来…偶然のタイミングですが読書ブログを始めてみたいと思います。

ツイッター全盛のこの折に今更ブログというのも、流行に疎い自分にぴったりかと。

タイトルにもあるようにかなり偏った趣向の読書感想文ですが、

マイペースでちまちま綴っていきます。ではよろしく。

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